- 2026.07.23
- VOL01
原子力産業の再興について、つらつらと思うこと
昨今の不安定な地政学的状況を鑑みると、日本にとって国産エネルギーの重要性は極めて高いことが分かります。先日のホルムズ海峡封鎖に伴う石油の供給量低下は、その顕著な例と言えます。日本の電力の多くは現在火力発電で、その燃料は石炭やLNGです。これらも海から船で輸送されてくるため、海路によって供給リスクがあることは否めません。そればかりか円安の煽りを受けて石炭やLNGのコストは上昇するばかりです。すなわち輸入燃料は供給リスクのみならず、為替リスクにも晒されているわけです。もちろん、エネルギーや電力を考える時、多様な燃料や発電方法をポートフォリオとして考えるのが適切です。そのため火力を否定しているのではありません。一方で、現状の我が国の状況を鑑みると、そのポートフォリオに占める脱炭素かつ国産エネルギーの割合を一定程度増やす事は国益に値すると考えられます。その様な背景から、政府は、今般の「経済財政運営と改革の基本方針」いわゆる「骨太の方針」の骨子案でも次世代革新炉を成長産業と位置付け、2040年までに官民合わせて5兆円の投資を行っていく方針を示しました。
この投資額が十分かどうかはさておき、一度は国内の全原子炉を停止し、ここ数年で漸く15基(2026年4月時点)を稼働させたことを考えれば、国としてその重要性を認め、原子力発電の再興に向けてまずは予算に組み入れたといった所でしょう。
しかしチャレンジはここからです。一国の国策である原子力発電産業を15年停止したことによって当該産業に掛かる様々なリソースのサプライチェーンが棄損してしまった事は否めません。原子力発電に伴う技術は、大手企業のみならず、その多くが高い技術をもった中小企業によって支えられています。この点は、例えば新幹線やロケットに使われる部品などと同じです。そういった中小企業が作る製品はいわゆる一品モノで、高い技能を持つベテランの技術者の手作りであることも多いわけですが、その様な企業が15年も発注がない中で生き残っていけるでしょうか?企業としては生き残っていても、製品を作らない15年間で、その技術継承がされていないであろうことは容易に想像がつきます。今、国としてこの様な状況と向き合い、大手企業やプライムコントラクターのレベルを超えて、クリティカルな技術と部品についてサプライチェーンのつぶさに把握し、それらを蘇らせることが必要です。同時に代替が可能なものや、企業として生き残れるだけの商流をどの様に作ってやるか?といった観点も含めて、よく練られた産業復興プログラムが求められるのではないでしょうか。
フランスは原子力大国として知られますが、それでもここ数年原子力(主にバックエンド)に対する投資については紆余曲折がありました。しかし、不安定さを増す地政学的リスクに直面し、再度原子力産業への取組みを強化しました。興味深いのは、フランスのCEA(原子力・代替エネルギー庁)、EDF(国営フランス電力)、オラノ(核燃料サイクル企業)、フラマトム(原子炉メーカー)、ANDRA(放射性廃棄物管理機関)といった原子力産業界が一丸となって産業復興の共通ビジョンを策定し、戦略協定を結んだ(2025年6月)ことです。日本も参考にできる点が多いのではないでしょうか。